サプリメントぐらし

あなたは私のビタミンC

ホス狂いの彼女と推し厨の私

久し振りに会った友人がホス狂いに片足を突っ込んでいた。

彼女とは何年ぶりに会っただろうか。以前に比べると少し派手ではあるがとても美人になっていた彼女はキレイながらもどことなく暗い影を背負っているようにも見えた。少し疲れもあったのかもしれない。他愛ない近況報告をしながら笑いあっていた矢先にホストクラブ通いをしていることを私に告白すると、少し間を空けてからぽつりと「貢いでも貢いでも金づるにしか思われていないのがわかるから辛い」という愚痴を呟いた。

彼女とは違い、私はホストクラブというものをよく知らない。精々若手俳優が演じるホスト舞台を見たことがあるくらいだろうか。ホストちゃんとかホントンとかワンプリとか眠れぬ町の王子様とか…。思ったよりたくさんのホスト舞台が思い浮かんで驚いた。若手俳優とホストは親和性が高いのだろうか。そんなどうでもいいことを考えながら私はスタバの新作に口をつけた。推しがSNSで写真を上げていたその新作は私には少し甘過ぎる。

「本当はお金と営業成績のためだってわかってるのに、君に会いたいから来てねって言われると我慢できない」
「わかる」

女の愚痴は共感と賛同を求めているだけだ、とはよく言うがこのときの私の「わかる」には過度の実感も含まれていた。だって私も推しが「絶対楽しいから来てね」とか「みんなに会えるのを楽しみにしてるよ」とか言っているのを見ると握手券付きのCDを買い足さずにはいられない。この時の私と彼女はただ追い掛ける相手が違うだけの同志であった。

そう考えるとやはり若手俳優とホストは親和性が高いのかもしれない。1度にかかる金額の高さと接客距離の違いはあるものの私は彼女のことを他人事とは思えなくなっていた。

確かに私たち厨はいくら貢いでも報われることは少ない。金づるとさえ思われていないことが大半なのではないか。なにしろ推しは直接私たちが出したお金に携わることはない。何回現場に入ろうと何冊写真集を買おうとそれが現金になって見えるわけではないのだから。接触を数ループしたとしても次の現場では当然ながらきれいさっぱり忘れられている。
それに報われないのはないのはなにも認知に付随する承認欲求だけではない。推しの演技に惚れ込んで今後も芸能界で活躍して欲しいと全力で応援していても、彼らはある日いきなり引退を表明する。事務所を辞めたりグループを脱退することもあった。「ご報告」のブログタイトルに怯えているのはなにも結婚報告が怖いだけではない。

「私への接客が営業でしかないことも本カノが別にいることもわかってる。お金がなければ捨てられる。なのにどうして離れられないんだろう」

そう言う彼女のうつむいた姿に私はかける言葉が見つからなかった。どうして離れられないのかなんて私たちは既にわかっている。彼女は担当のホストが、私は推しのことが好きだからだ。好きとは言ってもりあことは少し違う。けれどもどう違うのかは説明出来ないくらいには紙一重な感情。それがあるから私たちは相手から離れられないのだ。きっと彼女もそれがわかっているから愚痴という解決も回答も求めていない形で私に話したのだろう。

その後も私たちは尽きない愚痴を言い合い、それでも最後には「シャンタ入れた瞬間の担当の笑顔プライスレス」「舞台の上で楽しそうに演技する推しの姿プライスレス」と言って別れた。非生産的で意義もない会話の終結に女子会の最たるものを感じる。しかしこうしてジャンルは違えども同じ愚痴を言い合うということはなかなかに稀で大事なことなのではないか。どこかすっきりとした表情で改札を抜ける彼女の姿を見ながら私はそう思った。

別れ際の彼女はなにも言わなかったがその夜もまた担当のホストに会いに行ったのだろう。過去に使っていた電車とは別路線の電車に乗る彼女の足取りはどこか軽快に見えた。